【芸能】夏ドラ惨敗?視聴率30%超の国民的ドラマが生まれない理由を数字から読み解く

どうなるのかな?

◆使われなくなった世帯視聴率

 テレビ業界内では世帯視聴率の時代が終わりを遂げた。NHKを含めた各テレビ局はもう実務で世帯視聴率を使っていない。局側の勝手な都合ではない。世帯視聴率は1962年から使われている古い代物で、データとして当てにならないからである。

 当てにならない訳は複数ある。その理由の1つであまり語られていないのが、母数である世帯数の大きな変化。例えばTBSの名作連続ドラマ寺内貫太郎一家』(1974年) の全話平均世帯視聴率31.3%と現在の連ドラの世帯視聴率は別物であり、比較できない。

 世帯視聴率とは「全体の世帯のうち、どれだけの家でその番組が見られていたか」を表す。より噛み砕いて言うと「100世帯のうち、その番組を観ていた世帯の数」である。

◆『寺内貫太郎一家』が高視聴率だった時代

寺内貫太郎一家』が放送された1974年の日本の総世帯数は約3270万世帯(国勢調査)だった。これが母数である。その後、核家族と高齢者を中心とする独居世帯が急増したため、2021年の世帯数は約5570万に膨れ上がった(同)。約1.7倍である。

 母数がまるで違うのだから、過去と現在の世帯視聴率の比較は無理がある。1974年なら約1000万世帯が観ると世帯視聴率は約30%になったが、2021年は同じ1000万世帯が観ても同約17%にしかならないのだ。

 トレンディドラマの世帯視聴率が軒並み20%を超えていた1990年と今も比較は出来ない。1990年の総世帯数は約4060万(同)。2021年は前述の通り約5570万(同)に増えた。母数が約1510万世帯も違うのである。

◆高齢者が好む番組ほど世帯視聴率は高くなる

 世帯視聴率の問題はまだある。高齢者が好む番組ほど数値が高くなるようになった。

 テレビは65歳以上の高齢者のほうがよく観る。60代は平日で平均1日約4時間31分観ている(総務省調べ、2020年)。片や10代は同約1時間13分、20代は同約1時間28分、30代は同約2時間15分しか観ない(同)。60代以上と比較すると、はるかに観ない。観る時間がないという事情がある人もいるだろう。

 一方、高齢者のいる世帯数は約2558万世帯。実に全世帯総数の約半数を占める(2019年国民生活基礎調査)。1986年には3割弱だったが、急伸した。

 高齢者自体も多い。1975年には887万人だったが、2021年3640万人に激増した(国勢調査と人口推計)。片や1975年に19867万人いた20代(国勢調査)は2021年には1264万人に激減(総務省)。30代も1975年の約1766万人(国勢調査)から1389万人に大きく減った(総務省)。

 これにより、数が多い上、テレビをよく観る高齢者が好む番組ほど、世帯視聴率が伸びるようになった。数の少ない若者が好みの番組を見つけ、それを観ようが、世帯視聴率は容易には上がらないのである。

◆『サザエさん』の支持を視聴率から読み解く

 世界に類を見ない少子高齢化が進行しているため、子供とその若い親が主な視聴者である『サザエさん』(フジテレビ)が昭和期のように20%を超える世帯視聴率を獲るのは極めて難しい。

サザエさん』の現在の世帯視聴率は8%前後。世帯視聴率のみで昭和期の数値と比較する向きは番組の衰えを指摘し「打ち切り」との説まで流れた。だが、2年半前に本格導入された個人視聴率とコア視聴率を見ると、『サザエさん』にはまだ一定以上の支持があることが分かる。

 個人視聴率は「全体のうち何人が観ていたかの割合」である。「100人中、何人が観ていたか」がパーセンテージで表される。観ていた人の性別、年代等も細かく分かる。その個人視聴率を13歳から49歳までで切り取ったのが、コア視聴率(少し違った年齢層を切り取る局もある)。現役世代で購買意欲が高いので、スポンサーが歓迎する。

 10月2日放送の『サザエさん』の視聴率は世帯が8.1%、個人が5.6%。一方、同じ日のテレビ朝日ポツンと一軒屋』は世帯が15.5%で個人が8.9%だった。『サザエさん』の惨敗である。

 だが、コア視聴率は『サザエさん』が5.3%で『ポツンと――』は2.4%と大きく逆転する。打ち切られるどころか、コアなら高視聴率番組なのだ。逆に『ポツンと――』は高齢者の視聴者が多いことが分かる。

 今の時代、人数の少ない子供向けのアニメ、あるいは若者向けの連ドラが世帯視聴率を獲れないのは、あらかじめ約束されたことなのだ。

◆夏ドラマは視聴率惨敗のウソ

 9月24日に終わった日本テレビの連ドラ『初恋の悪魔』は評判高かったが、最終回の世帯視聴率は4.6%。それを貶す声もあった。個人も2.5%。そう高くはない。

 一方、コアは2.3%だった。同日のNHKサンデーウォッチ9』はコアが1.1%(世帯6.8%、個人3.7%)だから、完全に上回っている。やはり同日のTBS世界ふしぎ発見!』のコアは1.4%(世帯6.1、個人3.3%)なので、こちらも超えた。

『初恋の悪魔』は誰の目にも高齢者向け作品ではない。世帯視聴率が上がるはずがないのだ。世帯視聴率でドラマの真価は量れない。

 世帯視聴率と個人視聴率、コア視聴率の差異を表すため、7月期ドラマの視聴率の一部を書く。すべて最終回である。

日本テレビ家庭教師のトラコ』9月21日、世帯4.7%、個人2.6%、コア1.7%
テレビ朝日六本木クラス9月29日、世帯10.7%、個人6.2%、コア3.0%
TBSユニコーンに乗って』9月6日、世帯8.7%、個人4.9%、コア3.3%
フジテレビ『競争の番人』9月19日、世帯9.5%、個人5.6%、コア2.3%

ユニコーン――』のコア層からの支持の厚さが目立つ。このドラマも世帯視聴率は低かったが、高齢者向け作品ではない。

◆視聴するデバイスの変化がもたらす影響も

 視聴率はほかに録画分も含めた総合世帯視聴率、同個人視聴率もある。光ディスクプレーヤーレコーダーの普及率は2021年3月末時点74.3%(内閣府経済社会総合研究所)に達している。いよいよ世帯視聴率は当てにならない。

 TBS『石子と羽男』もやはり好評を博しながら世帯視聴率は低かった。9月16日最終回は8.0%。個人は4.4%。こちらも「低視聴率」との誹りがあった。だが、コアは2.9%と高かった。さらに録画分も含めた総合世帯視聴率は16.8%で同個人視聴率は9.4%に跳ね上がるのだ。

 ほかに現時点では収益も総視聴人数も放送とは比較にならないが、2015年に始まった民放共同の配信サービスTVerティーバー)」も伸びている。配信サービスNHKプラス」も同じ。登録数は今年4月現在で約250万件。NHKの受信契約件数(約4170万件、2020年度末)の約6%程度に過ぎないが、こちらも普及しつつある。もう世帯視聴率だけで番組は語れない。

「世帯視聴率が高かったら個人視聴率も高い」と捉えている人もいるが、それは誤解。また例を挙げたい。9月14日に放送されたテレビ朝日の2時間特番『池上彰ニュースそうだったのか!!2時間スペシャル』の世帯視聴率は9.7%だった。同じ放送時間帯で日本テレビが3時間に渡って放送した『日テレ系人気番組秋の3時間コラボスペシャル』は同9.8%。ほとんど同じだった。

 だが、個人視聴率は『池上彰の――』が5.5%で『日テレ系人気番――組』が6.3%。関東地区における個人視聴率の1%は42.2万人なので、かなり違う。

 各局は本音ではテレビ業界以外も世帯視聴率を使って欲しくない。非公式の場ではそう口にする。

 だが、表立ってそれを提言することはしない。その一番の理由は言論機関でもあるテレビ界が、表現の自由を妨げることになってしまうからだ。過去の産物になった世帯視聴率だが、しばらくは消えない。
(視聴率はビデオリサーチ、関東地区)

文/高堀冬彦

【高堀冬彦】
放送コラムニストジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立

TBSチャンネルHPより

(出典 news.nicovideo.jp)

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Source: 芸能野次馬ヤロウ

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