『科捜研の女』が大きな転機に 沢口靖子(56)が駆け出し時代に抱えていた“苦悩”「容姿といった表面的なことだけでしか…」

大きいこと

 沢口靖子主演の人気ドラマシリーズ科捜研の女』(テレビ朝日系)の劇場版が、去る9月3日に全国の映画館で封切られた。

 京都府警の科学捜査研究所(通称・科捜研)を舞台に、沢口演じる主人公の法医研究員・榊マリコが科学捜査によって事件の真相に迫る同シリーズスタートしたのは1999年。以来、昨年までにシーズン20を数え(続くシーズン21も来月より開始予定)、スペシャル版も含めると計254エピソードが放送されている。それにもかかわらず、今回、22年にして初めて映画化されると聞くとちょっと意外な気もする。同じくテレビ朝日と東映の制作による警察ドラマで、1年あとに始まった『相棒』が、シリーズ開始9年目の2008年劇場版第1作が公開されていることを思えば、『科捜研の女』ももう少し早く映画化されていてもおかしくはなかったはずである。

 じつは映画化については10年以上前から話はあったものの、それが現実味を帯び始めたのは20周年を迎えた2019年に初めて1年間にわたる放送を乗り切ったころらしい。これに自信をつけた番組チームのなかで“次のステージに進む”という機運が高まり、いままで積み重ねたきたものを劇場版にして形にする企画が動き出した(※1)。このとき、制作側は長年シリーズを見ているファン層に向けて「映画になるとしたら、どんな『科捜研の女』を見たいですか」というアンケートを実施し、上位に入った要素を取り入れることにしたという(※2)。

“科捜研版アベンジャーズ”にする

 それにあたり、このとき上位に入った一つに「“科捜研版アベンジャーズ”にする」というのがあった。今回の劇場版ではこれに応えて、マーベル・コミックヒーローたちが集結した映画『アベンジャーズ』よろしく、『科捜研の女』の新旧の登場人物がずらりと顔をそろえることになった。初期からのファンには、渡辺いっけい演じるマリコの元夫の倉橋や、過去にマリコにフラれた野村宏伸演じる佐沢などが、どんな場面で登場するかも見どころだろう。筆者のようなほぼ初心者にも、過去の大半のエピソードウェブ配信されているので、劇場版を見たあとにマリコと各人物との関係を改めて確認しながら楽しむこともできる。

科捜研の女』が放送される木曜20時台はもともと、長らく時代劇が放送されてきた枠である。それが1999年よりミステリー調の現代劇の枠へと移行、本シリーズはその4作目としてスタートした。

CSI:科学捜査班』より早かった

 90年代は、警察物のドラマに新風を吹き込む作品があいついで生まれた時代である。事件のトリックを解き明かすことに重点を置いた『古畑任三郎』が人気を博したかと思えば、『踊る大捜査線』は所轄と本庁の対立など警察の組織内におけるさまざまな人間関係を描いて大ヒットした。いずれもコメディの要素を取り入れた点でも共通する。テレビ朝日と東映の番組チームもこうした流れを多分に意識していたに違いない。そのことは、科学捜査に特化したドラマという、それまで海外でもあまり例のなかった領域に挑戦したことからもあきらかだ。ちなみにアメリカで同ジャンルの人気ドラマCSI:科学捜査班』が生まれたのは、『科捜研の女』の翌年である。

科捜研の女』はスタートしてからというもの、次々と生まれる新しい科学捜査の手法を貪欲に物語に取り込んできた。現実の世界におよぼした影響も小さくない。科学捜査で使われる機械は高額のため、実際の捜査現場では購入許可が下りにくいようだが、このシリーズで使用されたおかげで具体的な活用法がわかり、許可がもらえたというケースもあるらしい。また、最近では視聴者の少女から「科捜研に勤めるにはどうしたらいいんですか?」という問い合わせもたびたび局側に来るという(※3)。

デビュー当初に「関西弁」で苦戦

 主演の沢口靖子にとっても、『科捜研の女』は大きな画期となった作品だ。大阪出身の沢口は19歳となる1984年幼馴染の推薦で応募した「第1回東宝シンデレラ」でグランプリを受賞して芸能界にデビュー。翌85年にはNHK連続テレビ小説『澪つくし』でヒロインを演じ、一気に世に知られるようになった。以来、多くのドラマや映画に出演したが、デビューして10年ぐらいはひたすらスケジュールをこなすだけで、一つ一つの仕事にきちんと向き合えてこなかった……とはある雑誌記事での本人の弁だ。同じ記事で彼女は、それでもやってこられた理由を、《きっと容姿といった表面的なことだけでしか役を任せてもらえていなかったということだと思います。俳優というのは、人間を表現していくもの。ただきれいとか美しいだけではない醜い部分もあってはじめて一人の人間があるのに、それを表現する役を与えてもらわなかったし、与えてもらってもできなかったでしょうし……。(笑)》と省みてもいる(※4)。

 そうなってしまった一因としては、デビュー当初に関西弁を否定されたことが大きかったようだ。もともと演技の素養がないところへ、標準語を使いながら感情を込めて演技することを要求され、大きなプレッシャーとなった。これを克服すべく、普段から関西弁を使わないよう心がけ、郷里の親や友達への電話は控え、普段の会話でも周囲の人に「いま、関西弁が出た」とチェックしてもらったりもしたという。

 そんなふうに闇雲にやってきた彼女に俳優としての自覚が芽生え始めたのは、30代に入ってからだという。NHK大河ドラマ『秀吉』(1996年)では、豊臣秀吉の正室・おねを、やきもちも焼けばドジもする人間臭い人物として演じた。それまで“正統派のお嬢さん”のイメージが強く、時代劇でもその手のお姫様を演じることが多かった彼女だが、これを機に周囲からコメディもできると認知されるようになっていく。この延長で、2000年より5年間出演した金鳥「タンスにゴン」のCMでは、ひな人形政治家などさまざまなキャラクターに扮しながら関西弁で本音をまくしたて、従来のイメージを覆す。

「マリコの魅力は、沢口さんの魅力と重なる」

科捜研の女』がスタートしたのは沢口靖子にとってそういう時期であった。このシリーズによって沢口の演技の幅がさらに広がり、俳優として魅力を増したことは間違いない。制作側もそれを活かすべく、マリコに時折コスプレをさせたり意外な行動をとらせるなどして、物語の面白さを追究する。シーズン9より監督として参加し、今回の劇場版も手がけた兼﨑涼介は、《マリコの魅力は、沢口さんの魅力と重なりますね。どこか浮世離れしていて、ちょっとしたアイテムで面白くなる。いい意味で壊しやすい。新選組やお姫様の格好になったり、普通なら「なんで?」と思われそうなことでも、なぜかマッチしてしまうのは、沢口さんだからこそ》と語っている(※2)。

 マリコのキャラクターシーズンを重ねるに従い、徐々に変わっている。スタートしたころは部屋を片づけられなかったり、運転免許がなかなか取れなかったりと、私生活ではダメダメな面が強調されていた。ただ、捜査に関して必要とあれば体を張ることもいとわない点など、現在まで一貫しているところもある。

 初期の『科捜研の女』ではまた、科学捜査で真相を追究するマリコに対して、長年培った勘を頼りに捜査を進めるベテラン刑事・木場(小林稔侍)の存在がコントラストを成していた。だが、マリコはしだいに木場の人間性に惹かれていく。いまでは、当の彼女がかつての木場と同じく情のある人へとシフトしてきている。ほかにも、殉職した木場に替わってマリコと長らくコンビを組む刑事の土門(内藤剛志)が、彼女をある時期から「おまえ」と呼ぶようになったりと、長く続くシリーズだけに、さまざまな場面で個人や人間関係の変化が見てとれるのが面白い。

科捜研の女』がなぜこれほどまでに長く続いているのかについては、これまでにもいくつか考察がある。いまから3年前の『週刊文春』の記事では、《理由の一つは、沢口さんの衰えない美貌だという声があります》とのテレビ朝日関係者のコメントが紹介されている。同じ記事には、彼女の美貌の秘訣として「朝も暗いうちに起き、自分で野菜中心の朝食をつくり、ストレッチとウォーキングをしてから現場に入る。撮影中もカロリーの高い物や味の濃いお弁当は食べない」といったことをあげた現場スタッフの証言も出てくる(※5)。

存在感のある息の長い女優さんになりたい」

 おそらく視聴者の多くも、単に沢口の美貌に見とれるだけでなく、それを維持するために彼女が日頃より続けているであろう努力を感じ取っているはずである。それは、本人が語っていたようにデビュー当初、「容姿といった表面的なことだけでしか役を任せてもらえなかった」のとはまったく違う。ようするに内面的な部分をも含めて沢口はその魅力にますます磨きをかけていることを意味する。それは彼女自身がずっと目指していたものであっただろう。その証拠に、20年前には、次のように将来への抱負を語っていた。

《私としては、やっぱり存在感のある息の長い女優さんになりたいと思います。外国の女優さんなんかは、その時々の年齢のすてきさを見せてくれるでしょ。しわ一本に説得力があったりするじゃないですか。私も、ルックスだけでは出せない、その人が重ねた人生みたいなものを出していけるようになりたい。そのためには、つねに感性を磨いておかなければ。内面から出るものを要求されたときに、ちゃんとこたえられる自分でいたい。見た目だけじゃなく、「やっぱり沢口じゃなければ、この役はやれない」と言われるのが理想ですね》(※6)

「やっぱり沢口じゃなければ、この役はやれない」――榊マリコは彼女にとってまさにそうした役になっている。

※1 『科捜研の女劇場版-』パンフレット(東映事業推進部、2021年
※2 『月刊デジタルTVガイド』2021年10月
※3 『ぴあMOOK 科捜研の女 コンプリートBOOK』(ぴあ、2019年
※4 『婦人公論』2011年2月7日
※5 『週刊文春2018年2月1日
※6 『月刊アサヒグラフ person2001年10月

(近藤 正高)

『科捜研の女 -劇場版-』公式サイトより

(出典 news.nicovideo.jp)

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Source: 芸能野次馬ヤロウ

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