“キートン山田の残像”を逆に楽しむ きむらきょうや、『ちびまる子ちゃん』2代目ナレーターの覚悟

ナレーター2代目

 1990年スタートから、アニメちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)のナレーションを務めてきたキートン山田氏が、惜しまれながら3月末で引退。4月4日放送回から、ベテランナレーターのきむらきょうや氏が、その2代目を務めることになった。『進め!電波少年』(日本テレビ系)、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系/以下めちゃイケ)、『芸能人格付けチェック』(テレビ朝日系)など数々のバラエティを盛り上げてきた一方、アニメ作品とはほぼ縁がなかった同氏が、55歳にしてなぜ新たなステージに挑もうと思ったのか。イメージが確立しすぎている作品のなか、いったいどのような心境でオファーを受けたのか?本人に話を聞いた。

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■『めちゃイケ』のドッキリかと思ったまさかのオファー

「お話をいただいたときは、一瞬ポカンとなりましたね。ナレーション、声優、アナウンサーは同じ声の仕事ですけど、住んでいる村がそれぞれ違っていて、よほどのことがない限り、村を越えたキャスティングはしないので。しかも、『一度、テストに来てほしい』と言われて、いわゆるオーディションに行ったんですけど、その後1ヵ月くらい音信不通で。これは『めちゃイケ』のヤツらが仕掛けたドッキリの可能性が高いぞって思ってました(笑)

 バラエティ界を中心に人気ナレーターとしての地位を確立してきたきむら氏ゆえに、そう思うのも無理もない。アニメ作品への参加は、今年4月より放送の『ましろのおと』(MBS/TBS/BS-TBSほか)に続く2作目。国民的アニメナレーション決定の電話を受け、「いくつになってもなんでもできるんだなってうれしくなった」と破顔する。

 しかし、『ちびまる子ちゃん』のナレーションといえば、31年にわたり務めた前任のキートン山田氏の印象があまりにも強烈。視聴者キートン山田氏のいわば“残像”がある中での抜擢に重圧は感じなかったのだろうか。

プレッシャーはありましたけど、実は僕、前の人が辞めた後を担当するという仕事をけっこういっぱいやっているんです。『クイズ$ミリオネア』(フジテレビ系)も『がっちりマンデー!!』(TBS系)もそうでした。前任の人の空気を踏襲しながら、だんだん自分のオリジナルに近づけていくみたいなことをやってきていたので、その方法で『まる子ちゃん』もやってみようと思いました」

 このテクニックを培ったのが『めちゃイケ』だった。

「『めちゃイケ』では、毎週、現場で他番組のパロディーのようなコーナーをやらされていたんですね(笑)。他番組のナレーションを意識して、1時間くらいやっていると、後半、なんとなく、ご本人が降臨してきたみたいな感じになって(笑)。あの“パロディー力”に鍛えられたなって思っています」

ナレーションで培ったものと真逆を求められる…“声優1年生”を満喫

 きむら氏の起用を発表した『ちびまる子ちゃん』番組HPで、制作チームは「くすっと笑える語り口や温かみのあるお声、そして時にシニカルなコメントがぴったりだと思い、お願いしました」とコメントを寄せているが、そのシニカルさも「『めちゃイケ』や『電波少年』で培わらせていただいた」と振り返る。
 だが、55歳にして初めて足を踏み入れた国民的アニメナレーションの現場には、そんなきむら氏を驚かせるシチュエーションが待っていた。

「通常、テレビ番組のナレーションディレクターがいるだけなんですが、アニメーションの世界では、声だけの指導をされる音響監督がつくんです。『まる子ちゃん』の音響監督の本田先生は大ベテラン。ものすごく前後の芝居の流れにこだわられていて、例えば『翌日』という一言でも、『こういうストーリーがあって次の日に続くから、それを受ける君の芝居はこうなんだ』ということをすごく熱心にご説明してくださる。僕は芝居の経験は皆無で、全体の芝居の流れの中で声の演技をするということがなかったので、もう新鮮で!
 『まる子ちゃん』の現場は、親戚の集まりみたいに皆が仲良しで、アニメの空気感そのもののまったりした平和な雰囲気なのですが、そんな30年の歴史を持つ劇団一座に、突然、新人の1年生が入ってきたみたいな感じで(笑)。今は久しぶりに1年生になった楽しさを味わっているし、この歳でそういう先生にお会いできることが本当にありがたいです」

 そんな“1年生”が受けた衝撃にはこんなエピソードもある。

ナレーションはハッキリと、母音はもちろん子音の細かい音までキレイに鳴っていないとNGな世界なんですが、その声でやったら、本田先生に『キレイすぎるよ』って言われたんです。普段、声優さんがナレーションをやられているのを聞いて、『滑舌が甘いな』と思うことがあるんですが、逆に声優の世界では僕が怒られた(笑)。これまで僕にはなかった芝居という経験をして、面白いなって」

 初収録に臨む際、前任のキートン山田氏のカラーを踏襲するべく、過去の作品を見て準備したというきむら氏だが、それに対する監督の指導も驚きだった。

「『自分が思うキートンさんのトーンはこんな感じじゃないか』ってやってみたんです。で『そうじゃない、君でやってもらいたいんだ』って言われまして。僕がキートンさんを“トレース”して臨んだことにすぐに気づかれて、感動しましたね」

 その感動は、登場初回の4月4日、さらに深いものとなった。

バラエティ番組で聞く自分の声とは全然違っていて、僕自身、こんな声出したのかなって驚きました。キートンさんのように飄々としてすっとぼけた感じの声が使われると思ったシーンも、そちらではなく、ただ単に低音だけのむしろカッコよすぎる声が使われていて、こっちが選ばれたのか? って。監督の言うとおりにやったら『きむらきょうやだな』っていう声を感じられながらも、『まる子ちゃん』の世界観は壊れていない。驚きましたね」

■自分の声が“枯れていくこと”が楽しみ

 ナレーター交代後の第1回放送を観た視聴者からの評判も上々。SNS上には「すごく良くて安心した」「思ったより違和感ない」「まだ違和感あるけどこれはこれでいい」などの声が寄せられたが、実は本人は「炎上を覚悟していた」のだとか。

「『さあこい! 怒られるぞ』って思っていました。ただ初回はセリフが少なかったから騙された人が多いかも(笑)。まったく忖度がない現場で、『まだ1年生なのに、こんなにいっぱいナレーションやるの?』って回もあるので、その回のオンエアは顔面蒼白、炎上するかもしれません(笑)

 饒舌に実に楽しそうに『ちびまる子ちゃん』を語るきむら氏。今は、週に1回あるという収録日を中心に全力で生き、現場に向かうときはいつも、1年半前に亡くなった友人でパンクロッカーのイノマ―氏に「お前の分まで生きてるぞ、このヤロー!」と語りかけていると言う。

「声優の人気の高まりを受けて、今は声優の方々がナレーター界になだれ込んできていますが、僕はその激流に逆走している(笑)。アユが一匹だけ遡上しているような感じで、それがまたすごく面白い。人生の後半でここにランディングしたことは本当に良かったと思っています。キートンさんは最後の頃、とても枯れたいいお声になられていましたけど、70歳とか75歳くらいにならないとああいうトーンって出ないんですよね。僕にはこれからそれが待っていますし。枯れていく中で表現していく声って本当にカッコいいと思っているので、このまま、“じーさんナレーター”になる道を楽しみに歩んでいきたいと思います」

 今後のナレーションについては、「チャンスがあったらもうちょっと軽薄さ、シニカルさが出せれば面白いのかなって思いますけど、まだまだ修行中でございます」とのこと。また、自身のナレーションについて、よりよい形にしていくために、視聴者からの意見もいただきたいと話す。

ファンの方と一緒に作っていきたいという気持ちですので、ご意見があったら、ぜひ僕のYouTubeツイッターコメントをいただければと思います。その代わり、書くなら具体的にお願いします。『なんとなく嫌いなんだよ』ではどうにもできないので、『サ行が弱いんだよ』とか(笑)。心温まるコメントもお待ちしています」

取材・文/河上いつ子

『ちびまる子ちゃん』の2代目ナレーターを務める、きむらきょうや氏 (C)oricon ME inc.

(出典 news.nicovideo.jp)

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Source: 芸能野次馬ヤロウ

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